2014年3月2日日曜日

鏑木行廣著「天保改革と印旛沼普請」 紹介

花見川流域の自然・歴史を知るための図書紹介 20

花見川地峡を舞台に実施された国家的規模の土木プロジェクトはこれまで3回あります。

最初の国家的規模の土木プロジェクトは律令国家により実施された、柏井(杵隈[かしわい]=水駅)と高津(高津土塁=軍事港湾)を結ぶ直線道路建設です。
律令国家は花見川と平戸川(後の新川)・印旛沼を結ぶ東海道水運支路を開設するために、陸路部分に直線道路を建設しました。

この土木プロジェクトは本ブログで調べ、仮説として提起しているだけで、本ブログを除き世の中に情報は全く存在しません。

2回目の国家的規模の土木プロジェクトは江戸幕府が実施した天保期印旛沼堀割普請です。この天保期印旛沼堀割普請に関連する図書は次例のように既に紹介してあります。

しかしこれらの図書は専門家向けであり敷居の高い図書です。ところが、印旛沼堀割普請に詳しい歴史専門家が一般向けに書いた判りやすい絶好の参考図書がありますので、紹介します。
鏑木行廣著「天保改革と印旛沼普請」です。

ちなみに、花見川地峡における3回目の国家的規模の土木プロジェクトは戦後の印旛沼開発です。このプロジェクトに関連する図書は既に紹介しています。
2014.02.21記事「印旛沼開発工事誌 紹介

1 鏑木行廣著「天保改革と印旛沼普請」の諸元、内容、目次
【諸元】
書名:天保改革と印旛沼普請、同成社江戸時代史叢書12
著者:鏑木行廣
発行所:同成社
発行日:20011130
体裁:19 × 13.4 × 2.2 cm238

【内容】
本書のはじめにで著者は本書のねらいを次のように説明しています。
「延べ100万人前後の人夫と莫大な費用を費やしたお手伝い普請は、水野の失脚によってわずか三か月で幕を閉じてしまったが、そこにはいろいろな思いが複雑に交錯した人間模様を感じ取ることができる。
普請所に出張した庄内藩の家臣竹内八郎右衛門(鶴岡市郷土資料館蔵)、江戸南町奉行所の同心加藤太左衛門(船橋市西図書館蔵)、庄内藩の大庄屋久松宗作(久松俊一家蔵)などが書き残した日記・記録類には、幕府への不満、家臣や人夫の死、もめごと、天候、食事など興味深い内容が数多くつづられている。
本書は、日記形式で一日一日を追いながら、それぞれに置かれた立場で堀割普請にかかわった人々の心情を浮かび上がらせることをねらいとしている。読者の方々には、この天保の印旛沼堀割普請について、こういうこともあったのかと記憶のすみにとどめていただけたら幸いである。」

【主要目次】
はじめに
序章 過去二度の印旛沼堀割普請と天保の計画
1章 六月・お手伝い大名と幕府役人の任命
2章 七月・普請の準備と鍬入れ
3章 八月・町奉行鳥居の検分と膨らむ普請費用
4章 九月・普請の縮小と人夫の死
5章 閏九月・老中水野の罷免とお手伝い普請の終わり
終章 堀割普請一件のその後
参考文献
あとがき

鏑木行廣著「天保改革と印旛沼普請」

2 この図書の特徴
2-1 普請の時間経過を詳しく知ることができる
膨大な日記類を綿密に検討したうえで、時間を追って普請の経過の様子を詳しく記述していますので、普請の実像を知る上でとても参考になります。
著者が古文書を解読し、それを平易な現代文にして紹介していただいたということだと思います。

2-2 全て史料に裏打ちされた普請人間模様の記述が興味深い
全て史料に裏打ちされた情報に基づき、普請における人夫の生活や過酷な労働、発生する事件、食事や天候など一般専門書では得られない情報が書いてあります。本書により私は、普請に対する興味がいっそう増しました。

2-3 登場する地名を現在全て追うことができる
本書では各藩の持ち場や元小屋の場所、見回りのコースなどの地名が記述されていて、地理的な情報が省略されることがありません。
従って、本書記述内容が地理的に理解できるので、普請にたいする興味が深まります。
なお、花見川地峡付近は大規模に地形を改変した宅地開発が少ないので、本書記載の地名がほぼ完全に現在地と対比できるという条件があります。

(本書には地図が掲載されていないので、グーグルマップ等を利用しながら本書を読むことをお勧めします。)

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