2014年10月26日日曜日

旧石器時代石器学習 その2

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.2旧石器時代の移動路>3.2.3旧石器時代石器学習その2

4 立川ローム層の区分
旧石器時代遺物が出土する立川ローム層は次のように区分されていて、発掘時には出土遺物と出土層の対応が観察されています。

立川ローム層柱状図 情報追記
「千葉県の歴史 通史編 古代1」(千葉県発行)から引用

5 石器の分類
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)の記述をまとめてみました。私にとってほとんど全て初めての知識です。

5-1 石材消費の諸類型

A 円礫選択…円礫をそのまま使用。敲打具、台石、磨石として利用。
B 割出し…素材(礫等)から剥片取り去った残りの部分の使用。
B-1 粗粒大型素材。打割器、石斧など。
B-2 細粒小型素材。両面加工石器。
C 割取り…石核から剥された剥片を素材として使用。
C1 一般的な剥片生産。幅の広い剥片の組織的生産。
C2 石刃生産。縦長剥片の組織的生産。
D 挟み割り 小円礫を両極加撃によって消費するもの。

5-2 割取石器の基本的分類
割取りされた剥片・石刃の大半は未加工のまま使われたが、少数のものは細部加工され、3種の石器に変形される。

Ⅰ 尖頭器…機能部が1点に収斂する2側縁によって構成される尖頭部にあるもの。
ⅠA 周縁加工
ⅠB バッキング(※)による整形剥離(ナイフ形石器、有背尖頭刃器)
ⅠC 魚鱗状剥離(石槍)
Ⅱ 刃器…未加工の鋭い刃部を機能部とする。
Ⅲ 刃部形成石器…剥片縁辺の二次加工で機能部を作り出すもの。

※ 刃部背後側からの加撃か?

5-3 石器群の諸変異
上記分類基準に基づく房総半島の後期旧石器時代石器群の識別。(ギャザリング・ゾーンは2014.10.25記事「旧石器時代石器学習その1」参照)

石器群1 斜軸尖頭器石器群
市原市草刈遺跡のみ。武蔵野ローム層最上層の石器群。千葉県最古の石器群。
斜軸尖頭器(割取ⅠA)、刃部形成石器(割取Ⅲ)。
ギャザリング・ゾーンはⅠa~Ⅰb。(房総半島南部地域)。

石器群1
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群2 端部整形石器群
立川ローム層最下層Ⅹ層から第2黒色帯下部Ⅳ層にかけて確認。Ⅹ層を産出基準とするものが多い。
端部整形石器には、斜軸尖頭器系統の端部整形尖頭器(割取ⅠA)と刃部形成石器系統の端部整形刃器(割取Ⅲ)がある。
ギャザリング・ゾーンはⅠb(嶺岡層群分布域)珪質頁岩、Ⅲb(栃木県高原山付近)

石器群2
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群3 台形石器群
産出層準はⅩ層上部からⅨ層。
端部整形石器群を母胎とする台形石器群。局部磨製石斧が多出する。
ギャザリング・ゾーンはⅢa(栃木県西荒川流域)珪質泥岩、Ⅲb(栃木県高原山付近)黒曜石。

石器群3
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群4 珪化岩・黒曜石製石刃石器群A・剥片製小型ナイフ形石器石器群
産出層準はⅨ層中部から上部。
バッキングによる尖頭器(割取ⅠB)卓越、台形石器共存、特徴ある片刃石斧出現。
いわゆる環状ブロックの終末期に相当する。

4a 剥片製小型ナイフ形石器石器群
ギャザリング・ゾーンはⅡ(栃木県宇都宮丘陵周辺)~Ⅲa(栃木県西荒川流域)、下野-北総回廊周辺の珪化岩。
房総半島南部のギャザリング・ゾーンはⅠa(万田野層等)、Ⅰb(嶺岡層群)

4a
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

4b 黒曜石製石刃石器群A
信州産黒曜石による中型石刃、石刃製尖頭器。

4b
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群5 楔形石器群
Ⅸ層中部からⅦ層にかけて多い。
房総半島の礫層からチャートなどの小円礫を採集し、挟み割りによる小型縦長剥片の量産。そのまま尖頭器や刃器として使用。
砂礫層から小型円礫しか産出しない九十九里沿岸部に濃密で「遠山技法」と呼ばれる。
ギャザリング・ゾーンはⅠc(藪層や地蔵堂層など)。

石器群6 珪化岩・黒曜石製石刃石器群B
第2黒色帯最上部から姶良Tn火山灰降下期前後にかけての層準から検出。
大形の石刃を含む多様な石器群。

6a 各種珪化岩製大型石刃石器群
第2黒色帯最上部(Ⅶ層)中心に含まれる。
大形の石刃を含む石器群。石刃以外に割取りと挟み割りによる刃器類。石刃は刃器類とバッキングによる尖頭器ⅠBの素材として用いられる。
ギャザリング・ゾーンはⅢa(栃木県西荒川流域)・Ⅲd(西部関東各地域)珪質泥岩。

6a
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

6b チョコレート泥岩製大型石刃石器類
Ⅶ層上部~Ⅵ層が主たる産出層準。
石刃の一部は折り取られ、折れ面を打面として側縁部から小石刃が企図的に生産される(有樋石刃)。この手法を「新田効果」と呼ぶ。
ギャザリング・ゾーンはⅤa(新潟県阿賀野川流域)・Ⅴb(新潟県信濃川流域)・Ⅳa(福島県只見川流域)・Ⅳb(福島県会津盆地周辺)珪質泥岩(チョコレート色をしているのでチョコレート泥岩と呼ぶ)

6c 黒曜石製石刃石器群B
産出層準は6bと区別できない。
大形原石入手が困難であるので、チョコレート泥岩にくらべ小型の黒曜石製石刃石器群。石刃は刃器類とバッキングによる尖頭器ⅠBの素材となる。石核は徹底的に消費される。
ギャザリング・ゾーンはⅤc(長野県の黒曜石原産地周辺)黒曜石。

6c
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群7 横打剥片製石器群
産出層準は姶良Tn火山灰よりも上部にある硬質ロームを中心としている。
割取り手法はC1で、生産された剥片から各種尖頭器(ナイフ形石器)・刃器・刃部形成石器(特に多種多様な削器)がつくられる。
黒色緻密質安山岩、各種珪化岩を多用する石器群。

石器群7
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群8 黒曜石製厚型鋸歯縁尖頭器石器群
産出層準は硬質ローム層~軟質ローム層下部付近。
横打剥片製石器群。小型で厚みのある尖頭器(ⅠB、ⅠC)を特徴とする。
石核から非常に小型の剥片が量産されていて刃器(類細石刃)として使用されていた可能性が高い。
ギャザリング・ゾーンはⅢb(栃木県高原山周辺)黒曜石。

石器群8
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群9 各種珪化岩製中型石刃石器群
産出層準は軟質ローム下部~中部。
石刃からは尖頭器(斜め整形のナイフ形石器)・刃器(截頂石刃が特徴的)・刃部形成石器(側削器、彫器)などがつくられる。
ギャザリング・ゾーンはⅠb(嶺岡層群)とⅢa(栃木県西荒川流域)・Ⅲb(栃木県高原山周辺)珪質頁岩。

石器群9
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群10 剥片製小型(幾何形)有背刃器石器群
主要産出層準は軟質ローム中部。
石器群7に後続する石器群と考えれる。黒色緻密質安山岩が多用される。
ギャザリング・ゾーンはⅠ(房総半島南部地域)、Ⅱ(栃木県宇都宮丘陵周辺)。

石器群10
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群11 小型石槍石器群
産出層準は硬質ローム層上部から軟質ローム層全層におよぶ。一部は縄文時代に下る。
魚隣状剥離によって整形された小型尖頭器類を小型石槍という。

11a 
横打剥片生産を基盤とし、鋸歯縁加工による尖頭器(ナイフ形石器)、厚みのある複刃削器(角錘状石器)など。

11a
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11b
面取りのある石槍を含む石器群。石槍は割出し系で男女倉型のものが多い。黒曜石が多用される。
ギャザリング・ゾーンはⅢb(栃木県高原山周辺)が主でⅤc(長野県の黒曜石原産地周辺)がこれに次ぐ。
石器群9とは指向的な関係。

11b
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11c-1
面取りのある石槍を含む石器群。
ギャザリング・ゾーンⅠb(嶺岡層群)を主体とする珪質泥岩製の東内野型尖頭器を含む一群。
彫器、端削器、少量の石刃などを共伴。
石器群10とは指向的な関係態。

11c-1
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11c-2
東内野型尖頭器を含む石器群であるが、ギャザリング・ゾーンはⅤa(新潟県阿賀野川流域)、Ⅴb(新潟県信濃川流域)、Ⅳa(福島県只見川流域)、Ⅳb(福島県会津盆地周辺)となる。
多量の彫器と端削器を伴う。
石器群11c-1とは指向的な関係。

11d
非面取り系石槍石器群。

11d-1
両面打製の木葉形尖頭器石器群。尖頭器には割取り、割出しの方法がある。再加工による変形が顕著。
ギャザリング・ゾーンは11c-2と重複して、Ⅴa(新潟県阿賀野川流域)、Ⅴb(新潟県信濃川流域)、Ⅳa(福島県只見川流域)、Ⅳb(福島県会津盆地周辺)。

11d-1
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11d-2
黒曜石製小型割取り系石槍石器群。小型端削器(拇指状)と不定形小型有背刃器が共伴する。
ギャザリング・ゾーンはⅢb(栃木県高原山周辺)とⅤc(長野県の黒曜石原産地周辺)に両極化。

11d-2
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11d-3
珪化岩製各種石槍石器群。割取り系が多い。不整形の小型刃器や錐・削器などの加工具を伴う。
ギャザリング・ゾーンはⅠb(嶺岡層群)を中心とする。別種の石材が混在する場合も少なくなく、石器群dに包括した各亜石器群との指向的な関係を物語る。

11d-3
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11e
大形の尖頭器を含む石器群

11e-1
木葉形尖頭器・石刃製尖頭削器・石刃製端削器・石斧・礫器などから構成される石器群。
ギャザリング・ゾーンはⅤa(新潟県阿賀野川流域)・Ⅴb(新潟県信濃川流域)~Ⅳa(福島県只見川流域)・Ⅳb(福島県会津盆地周辺)のグループと、Ⅰ(房総半島南部地域)・Ⅱ(栃木県宇都宮丘陵周辺)・Ⅲ(関東地方の外縁部)各エリアとなるグループがある。両者は指向的な関係におかれる。
房総半島では無土器である。

11e-1
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11e-2
黒色頁岩・黒色緻密安山岩・粘板岩(ホルンフェルス)・チャート・砂岩など関東平野山麓部から産出する均質な大型礫を素材とする大型石槍が主体となる。特に両側縁が平行になる長手のものが特徴。凹削器や有溝砥石を少量伴う。無土器。
ギャザリング・ゾーンはⅢd(西部関東各地域)。

11e-2
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

11f
有舌尖頭器・石鏃石器群。有舌尖頭器とは、嵌挿用の茎(なかご)が作り出された小型尖頭器。石鏃がつくられているので、槍と弓矢が使い分けられている。
粗雑な木葉形尖頭器や小型端削器、大型石斧がある。
槍の石材は黒色緻密質安山岩が多い。小型原石を使った割出し系石器群。
隆起線文土器が共伴し、縄文時代草創期初頭に位置付けられる。
ギャザリング・ゾーンはⅡ(栃木県宇都宮丘陵周辺)、Ⅰa(万田野層等)。

11f
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

石器群12 細石器石器群
非常に小型の石刃を組織的に生産する石器群。小型の石刃は柄に嵌め込まれ、槍や刃器として使われたと考えられている。

12a-1
野辺山型細石器石器群のうちギャザリング・ゾーンをⅤc(長野県の黒曜石原産地周辺)とするグループ。
野辺山型細石核とは旧来の石刃生産手法を踏襲するがそのサイズを著しく縮約するもの。

12a-2
野辺山型細石器石器群のうちギャザリング・ゾーンをⅠ(房総半島南部地域)、Ⅱ(栃木県宇都宮丘陵周辺)とするグループ。
黒色緻密質安山岩製の各種削器類や砂岩・ホルンフェルスなどのチョッパー・コアを共伴する。
12a-1と12a-2の産出層準は軟質ローム層の全層準にわたることから、石器群11a~dに併行しながら間歇的に生産されたものと考えられる。

12a-2
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

12b
札滑型細石器核を含む細石器石器群。
両面体石器を横に割った石核から細石刃を生産する。荒屋型と呼ばれる横断刻面彫器やバチ形の端削器を伴う。
ギャザリング・ゾーンはⅤa(新潟県阿賀野川流域)、Ⅴb(新潟県信濃川流域)、Ⅳa(福島県只見川流域)、Ⅳb(福島県会津盆地周辺)である。

12b
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

5-4 石器群の産出層準概念

房総半島後期旧石器石器群(12群26亜種)の産出層準概念図
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

旧石器時代石器の分類とギャザリング・ゾーン、産出層準との関係について、自分なりの理解の一歩を踏み出すことができました。

図書「千葉県の歴史 資料編 考古4」(千葉県発行)の一部を要約引用したような記事になりましたが、このような記事を作成することにより、旧石器時代石器に対する慣れをつくり、情報を自分の近くに引張込むことが出来たような感覚になりました。

次の記事で考察を書きます。

つづく

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