2015年5月13日水曜日

八千代市白幡前遺跡 墨書土器の文字検討 その3

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八千代市白幡前遺跡出土墨書土器文字の詳細検討を続けます。1Aゾーン、1Bゾーンの検討が済みましたので、この記事では2Aゾーン(寺院と中央貴族接待施設のあるゾーン)と2Bゾーン(寺院を支える農業集落)について検討します。

4 2Aゾーン、2Bゾーンに出土中心を持つ文字の検討
●2Aゾーン、2Bゾーンに出土中心を持つ文字

2Aゾーン、2Bゾーンに出土中心を持つ文字

ゾーン別墨書土器出土数については既に2015.05.08記事「八千代市白幡前遺跡 墨書土器出土の分布」で詳しく検討していますので、そちらを参照していただきたいと思いますが、2Aゾーン、2Bゾーンは墨書土器が最も少ないゾーンです。

この事実から墨書土器という風習は寺院サイドから発生したものでないことは明白です。

仏教で佛に祈るという行為と墨書土器を道具に使って神に祈ることはその原理が異なりますから、2Aゾーンや2Bゾーンで墨書土器出土が少ないことは当然です。

これらのゾーンに特徴的で多数出土する文字はありません。

しかし2Aゾーンは中央貴族接待係(集落の最上位階層)や寺院関係者が居住していたと考えられるので、そういう特権階級特有の文字が出土しています。

【2Aゾーンの文字】
●佛の意味
神の替わりに佛に対して、土器にお供え物をして、○○について祈った、という風に考えることが順当のようです。

●つの意味
不明。

●寺坏の意味
所有を表す言葉として寺坏を墨書して、寺院活動で使ったということで考えます。

●上の意味
ア 上(アガリ)と読み、官人が身分や位が上にあがることを祈願した。
イ この場所が中央貴族接待施設や寺院があり上(ウエ)の場所(貴い人がいる所)であり、その上(ウエ)に住む私が、○○○について祈願する。

●又の意味
又(マタ)と読み、以前良いことがあった(立身出世、財産増大等)が、同じような状態がもう一度出現することを祈願する。
欲張りな上層階層の祈願です。

●赤山、提赤山の意味
ア 人名説
赤山(アカヤマ)と読んで人名であると考え、提赤山は自分をお供え物として差し出して、本当の自分の命を死神から守ろうとする説です。
しかし、提+□□□形式で□□□に入る言葉で、人名のものが他に見つかりませんから、恐らくこの説の信憑性は低いと思います。

イ 寺院の山号説
2Aゾーンの寺院の山号が赤山(セキサン)であるとする説です。
提赤山で寺院を神(あるいは佛)に(お供えものとして)差し出して、本当の寺院の安泰を願うというストーリーになりますから、大いに無理があります。

ウ 開発地説
赤山(セキヤマ)という名称の地域開発地が付近にあり、その発展成長を願ったという説です。

赤地(セキチ)というと「草木のまったくない土地。旱魃(かんばつ)などのために作物がみのらない土地。」(『精選版 日本語国語大辞典』 小学館)、「作物の収穫のない土地。不毛の地。赤土(せきど)。」(『広辞苑 第六版』 岩波書店)という意味です。

ですから、赤山(セキヤマ)と呼ばれる、開発の効果がまだ出ていない特定開発地が存在し、その発展を願ったと考えるという説です。

提赤山と書いて、開発地赤山の発展・有用産物多産を祈願したのだと思います。

1Bゾーンで出てきた「山」の意味は「樹木を得る場所の確保や産物が沢山採れることを祈願したのかもしれません。白幡前遺跡には鍛冶遺構(*)が出土していますから、多量の炭をつくるために膨大な樹木伐採の必要があったものと考えます。」と書きました。
赤山の山もそれと類似した意味だと思います。

この付近に、現代に伝わる小字名として坊山、川崎山など山のつくものがあります。2015.04.21記事「八千代市白幡前遺跡 古代寺院関連地名」参照

もしかしたら赤山はこの坊山のことかもしれません。1Bゾーンの「山」も同じ坊山を指しているのかもしれません。

3つの説のうち、ウ開発地説の確からしさが最も強いと考えます。

●丈部人足召代の意味
2015.05.07記事「八千代市白幡前遺跡 墨書土器の文字の意味」で詳しく検討しました。

「丈部人足(はせつかべひとたり 墨書を書いた人名)の身体が病気(や死)に召される(招かれる)代わりに<人面>(疾病神、死神)に、この甕に入れた物(食べ物 疾病神・死神に対する賄賂)を奉ります(さしあげます)」という意味になります。(人面は丈部人足の自画像であると考えることもできると思います。)

●人足の意味
上記人面墨書土器を書いた丈部人足のことであると考えます。
丈部人足が○○について祈願しますという意味です。

●生万の意味
生は命で、万は万事の意味で、全ての危険・災厄から逃れて命を保つことを祈願したのだと思います。
生万でセイバンと読むのだと思います。

●長
長(チョウ)は長寿の意味であると考えます。延命を願ったのだと思います。

●安の意味
安(ヤスマル)と読んで、苦痛がおさまる、病気がなおるなどの祈願をしたのだと思います。

●丁の意味
丁(テイ)と読んで、提、堤、貞と同じ意味に用いたのだと思います。神に祈願する事柄をこめたお供え物を提出する(ひさげる、かかげる)という意味です。

●井口の意味
井(イ)は流水から用水を汲み取る場所ですから、井口(イノクチ)は水を汲みとる口から水をいつでも不自由なく汲み取りたいという祈願に使ったのかもしれせん。

【2Bゾーンの文字】
●器の意味
この器にお供え物を入れて、祈願しますという意味だと思います。1Aゾーンの「土垸」(土の埦)と同じだと思います。

●草田の意味
ア 地名説
草田(カヤタ)と読んで現代にまで伝わる大字地名に対比させて考えられています。(「八千代市白幡前遺跡-萱田地区埋蔵文化財調査報告書Ⅴ-本文編」(1991、住宅都市整備公団首都圏都市開発本部・財団法人千葉県文化財センター)等)

草田(カヤタ)に住む私が、○○を祈願します、ということだと思います。

イ クサダ説
草田(クサダ、カヤタと読んでも同じ)つまり草の生い茂った生産性の低い田の生産性向上を願ったものと考えます。
2Bゾーンは農業集落的性格が強いゾーンです。ですから、農業生産に関わる者が草田(クサダ、カヤタ)の生産性向上を祈願することは至って当然です。

2Aゾーンの赤山(セキヤマ)や次の乙山(オツヤマ、メリヤマ)と同類の祈願として草田(クサダ、カヤタ)を分類できると思います。

赤山(セキヤマ)や乙山(オツヤマ、メリヤマ)と一緒に出土する文字ですから、イのクサダ説の方がアの地名説より確からしさが上位と考えます。

●乙山の意味
乙(オツ)と読んで、十干の第二番目、甲に次ぐ第二位という意味があります。
また乙(メリ)と読んで、減ること、費用のかかることという意味があります。
乙とは、何れも上等ではなく、マイナス評価されることの意味です。

ですから乙山(オツヤマ、メリヤマ)は赤山(セキヤマ)と同義の言葉であると考えます。

乙山(オツヤマ、メリヤマ)という名称の(まだ産物の少ない)地域開発地が付近にあり、その発展成長を願ったという説になります。

赤山(セキヤマ)、乙山(オツヤマ、メリヤマ)と揃いましたので恐らくそれらの名称は、関係者が苦労している有様(生産性が低い有様)を表現したあだ名的通称であり、正式名称ではないと思います。

もしかしたら、赤山(セキヤマ)も乙山(オツヤマ、メリヤマ)も同じ対象を指しているのかもしれません。

●下の意味
ア 地名説
2Aゾーンに「上」(ウエ)が出土し、その意味の一つとして「この場所が中央貴族接待施設や寺院があり上(ウエ)の場所(貴い人がいる所)であり、その上(ウエ)に住む私が、○○○について祈願する。」と検討しました。
その上(ウエ)の傍のゾーンで、2Aゾーンを支える農業ゾーンが2Bゾーンです。ですから2Bゾーンは対比上「下」(シタ)になります。
ですから下(シタ)に住む私が、○○○について祈願すると考えることができます。

イ クダサル説
下をクダサルと読んで、神が○○を下さると受身的に祈願している様子としても考えることができます。

アの地名説の方が、無理が無いような気がします。

八千代市白幡前遺跡2Aゾーン、2Bゾーンに出土中心をもつ墨書土器文字の実例

1Bゾーンでは蝦夷戦争勝利祈願がメインであったのが、1Aゾーンでは出生・長寿・健康祈願がメインのようになり、その際立った差異がゾーンの基本機能の違いによく対応しています。

また、丈部人足召代の人面土器は貴重な多くの情報を提供していますが、それは墨書土器全体の中では特殊例外的なものであることがわかりつつあります。

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